DVDや地上デジタル放送によってサラウンドサウンドがご家庭で楽しめる映像・音楽ソフトと AV再生システム(ホームシアター)が身近で手頃な価格になりました。
現在普及しているサラウンドシステムは、当初、映画館の音響空間に動きと立体的な音場を演出する目的で開発されました。 劇場で採用されたサラウンドには、年代を経るに従って改良され、現在までに複数の方式が存在します。
映画のサラウンドには、フィルムへの記録方式や経過などから多数の方式が存在するため、 代表的なサラウンド方式を簡単に紹介します(各方式の詳細をお探しの方は、このページの下の方に 各公式ページへのリンクを掲載していますので、 公式ページをご覧いただくのが良いかと存じます)。
米国ドルビー研究所が開発した2チャンネルの音声トラックに4チャンネル分の信号 (L、R、センター、モノサラウンド) をマトリクスエンコードし、再生時にデコードして4チャンネルの信号として取り出す方法です。
映画で使用されているドルビーステレオをVHSやビデオディスクに使用するために民生用に改良されたものです。
映画音声のデジタル化に伴い、最大5チャンネル (L、R、センター、サラウンドL、サラウンドR) と低音効果用の補助チャンネルLFE (LFE:Low Frequency Effect) を追加した圧縮技術をベースの5.1チャンネル方式で、映画、DVDの音声トラックに使用されています。
その後、サラウンドチャンネル間のつながりを良くし臨場感と包囲感を更に高めるために 「バックサラウンドチャンネル」が設けられ、6.1チャンネルとなっています。 また、Blu-ray Disc用にはロスレス圧縮を用いた最大7.1チャンネルの方式もあります (LFEは他のチャンネルに比べて情報量が少ないため0.1チャンネルと呼ばれます)。
米国DTS社が開発した圧縮技術をベースとした5.1チャンネルの方式です。 L、R、センター(C)、サラウンドL(SL/SR)、LFEの5.1チャンネルで、映画、DVDの音声トラックに使用されています。
dts社とドルビー研究所のスピーカ配置は映画館での採用と普及の問題もあって同様の配置、拡張となっています。
DTSも「リア・センター・サラウンド」チャンネルを加えて6.1チャンネルとした方式や Blu-ray Dics用のロスレス圧縮を用いた最大7.1チャンネルの方式があります。
米国SDDS(Sony Dynamic Digital Sound)社が開発した圧縮技術をベースとした最大7.1チャンネルの方式です。 チャンネル数は当初から7.1チャンネルですが、映画館のみで採用されているサラウンド方式です。
オーディオメーカー各社は、ドルビーデジタルやDTSをベースとして更にチャンネル数を増やしたAVシステム (AVセンター/ホームシアター)を開発しています。
ソフトのフォーマットにない追加チャンネル (9.1ch・9.2ch・11.2ch)は、 DSPによりポストプロセス(AVアンプ内で演算付加される)で 映画館の反射音や残響成分を作り出して映画館の雰囲気を作り出したり、 サラウンドチャンネル用スピーカを増強してフロントスピーカから リアスピーカの空間を補強する方向で考えられています。
大きな劇場では複数のサラウンドスピーカによって空間の演出がされることから、 家庭のAV再生環境をより映画館の音場に近づける提案として、 追加chによるサラウンド空間の強化は、ハイエンドのAVセンター製品で採用されています。
「9.2ch」と「11.2ch」は、 サブウファーを2本にしているものです。 映像ソフトのフォーマットでは、LFEは1チャンネルで「.1」と表しますが、「9.2ch」と「11.2ch」は LFE信号とメインLRチャンネルの低域成分を左右の2本のサブウーファーから再生するように拡張しています。
このようにマルチチャンネル化で空間の表現力は向上しましたが、 映画館まで含めて現在のサラウンドは、 前後左右の水平方向のスピーカ配置(斜め上にサラウンドスピーカを配置するということはありますが) による音響空間の創造です。
ところが、現実の音場は、 水平方向だけでなく上下方向からも到来します。 この点が、劇場まで含めた現在のサラウンドの課題と認識されています。
映画でブルースウィルスがスペースシャトルで飛び立つ時、全チャンネルから大音量の発射音が再生されますが、 上下の音の移動による演出はされません。
アクション映画で、後ろから前に頭上を航空機が通過するシーンでは、 真上を通過する音響演出をスピーカの音量の移動で表現することは難しいため、 前後の移動速度などで工夫して演出されています (この上方向の音響の演出には、演出面でも音響的にも面白く、 お手持ちのDVDソフトなどで上方向の音が必要なシーンが存在するようでしたら注意して聞いてみてください)。
このような問題は、上方向からの直接音が無いことがサラウンドの演出の制約となっています。 そのため、将来のサラウンド方式では、上下方向にもスピーカをレイアウトする方法が検討されています。
サラウンドという呼称は、上記のような現在のシステムを指します。 将来の方式は、規格化される時には、何らかの呼称が付けられるでしょうが、今は単にマルチチャンネル音響システムのような呼称で区別、表現されています。
NHK放送技術研究所では「スーパーハイビジョン」のための 3次元立体音響システムとして、 22.2マルチチャンネル音響システムが研究開発されています。
現在のサラウンドに比較して圧倒的な数のスピーカは、「下段」−「中段」−「上段+頭上」と3層に 22個のスピーカが配置され、360度の立体音響空間が形成されます。 低域には2チャンネルのサブウーファーが用いられます (人は、低音の方向感がほとんど感じられないため、低音用は立体配置までは行われません)。
22個のスピーカは、聴取者と同じ高さだけではなく、 上方、下方にも配置することで前後左右、上下からの音の到来を表現することが出来る音響システムになっています。
このスーパーハイビジョンのソフトをヘッドホンで楽しむことができるように、 NHK技術研究所では「22.2ヘッドホン」も研究開発されています。
SMPTE(The Society of Motion Picture and Television Engineers:米国映画テレビ技術者協会) のデジタルシネマの音声規格DC-28は16chの音声チャンネルで規格策定が進められています。
DC28の場合にも、立体的なスピーカ配置による音響空間の拡張が検討されていますが、 補助音声のチャンネルの規定なども含まれます。
22.2chも16chも、頭上や上下方向にスピーカを設置して、先に述べたような上下方向の演出、音響空間を表現できるように考えられていることが将来のマルチチャンネル音響フォーマットの共通の特徴です。
スピーカチャンネル数が増えると音響空間の表現力が向上しますが、一方、 家庭で楽しむには部屋の広さや設置場所の問題から実現が難しい場合も少なくありません。
現在のAVセンターは、音量と位相(ディレイ)の調節機構を持ち、 スピーカ配置に対して適切に自動補正を行うものがほとんどですが、 補正をするにしても、スピーカは、視聴者からある程度はなれた距離に設置しないと、 サラウンドの空間を旨く形成できません (非常に狭い空間や近接位置でのサラウンドスピーカでは無理)。
狭い空間でも広がり感のある音響空間を再現したいという要望には、チャンネル数の改善では対応できません。
バーチャルサラウンドは、仮想音響空間を少ないスピーカ数で実現する技術です。
実際の空間に多数のスピーカを配置して音場を形成することができないことに対する解決方法として、 仮想的に音響空間を作り出そうというアイデアが生まれました
人の聴覚は最終的に両耳の2つの受音点で音を聞いているため、 両耳に立体的な空間の時と同じ音波を与えることができれば、立体的に聞こえるということになります。
バーチャルサラウンドは、前方のステレオ2チャンネルのスピーカや ヘッドホンでスピーカが存在するかのようにシミュレートしてマルチチャンネルの再生音場を作りだします。
サラウンドスピーカの配置を信号処理によるシミュレーションで、 5.1chや7.1chで再生された時のように、聴取者の位置に再現するのがバーチャルサラウンドです。 サラウンドヘッドホンもステレオタイプのものも原理的には同様です。
バーチャルサラウンドと同様に、音像を定位させる技術を使えば、 原理的には上下空間も表現できますが、現在のソフトの規格には、上限方向のチャンネルは存在しませんから、 上方に仮想の音像が作られるような市販製品はありません。 将来のマルチチャンネル音響が目指すような上下方向の音場の広がりは、現在の所、 バーチャルサラウンドでも実現されていません。
バーチャルサラウンドのような、仮想的なスピーカのシミュレートには「音像定位技術」が使われます。
両耳に到達する音は到来方向によって到達時間や音量が左右で異なった特性を持っており、 人は音の方向を判断するのにこの特性の差を手がかりにしています。
音像定位技術は両耳に到達する時間差や音量差を信号処理で シミュレーションすることによって仮想的な音源を定位させる技術です。 上下方向に配置されたスピーカを再現することも可能です。
将来のマルチチャンネル音響システムは、現在よりも、さらに多数のスピーカを立体的に配置するため、 現在のサラウンドよりも、家庭で再現することが困難です。 家庭では仮想的な音像定位を用いた再生環境が多数を占めるということになるでしょう(カーオーディオでも同様でしょう)。
上下にまで広がるサラウンドの世界は、まずは、規格策定とソフトの製作というところから開始というところです。
ちなみに、JEITAでは、マルチチャンネルとサラウンドの混用を避けるために「サラウンド表記についてのガイドライン」 (17JEITA-デ家第562号平成 18年3月31日)というPDFを発行しています。
22.2chの再生については、
「グループ別研究内容」−「人間・情報」−「高臨場感音響」に掲載されています。
http://www.nhk.or.jp/strl/group/ningen_joho/ningen_joho06.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89
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