ディレイは入力信号を遅延させる基本的な信号処理技術です。 信号を遅延させて出力するだけの利用方法と、原信号に加算(ミックス)する方法のおおよそ2種類に大別できます。 エコーやリバーブなど音響の信号処理では、フィードバックを加えディレイ信号が繰り返し出力される形がよく使われます。
ディレイ信号のみを利用する手法は、放送や拡声システムなどで位相や遅延時間を調整する目的で用いられます。
映像放送などでは、映像と音声が伝送経路によって異なる経路を経過することで遅延時間を伴い、伝送先(放送局など)で時間的にズレた状態になる場合があります。
このような場合に遅れた信号に合わせて、映像か音声のどちらかもしくは目的によってはどちらにも遅延時間で調整されます。
ホールなどの拡声システムでは、複数のスピーカーを用いて拡声する際に、スピーカ間の位相差や客席に音声が到達する時間差を調整する目的でディレイが用いられます。 集合スピーカー(クラスター)やマルチウェイ・スピーカシステムの位相差、時間を調整することをタイムアライメント補正と呼びます。 音響システムではタイムアライメント補正の目的の他に、明瞭度や音量を調整する目的でもディレイが利用されています。 音響調整での利用については、次のページをご覧ください。
原音とディレイ音をミックスして利用する方法は、エコー効果として楽器用エフェクターなどでポピュラーなものです。
エフェクターでは、フィードバック付きのディレイが主に用いられますが、フィードバックを使わずに極短いディレイタイムにしてダブ効果にしたり、クロスディレイ(左右をクロス)によって音像定位の効果として用いられるなど幅広く利用されています。
長時間のディレイ(ロングディレイ)やエコーはやまびこのように音が小さくなりながら反復する効果としてディレイの最もポピュラーな利用方法です。
リード楽器やボーカルなどに使われるロングトーンのエコーは、ディレイ単独で利用されるよりリバーブと組み合わせてロングトーンの残響効果を作り出す目的で利用することが一般的です。
音楽のテンポ時間とディレイ時間を合わせたものをテンポディレイと呼ばれ、ディレイ時間をテンポから設定できるようになっている場合もあります。
エコー効果として利用される場合には、ディレイ音(エコー)は、高音域と音量が減衰しながら反復されるような効果になりますが、 フィードバックにイコライザを用いてディレイ音の繰り返しの特性を特殊にするような方法もあります。
通常は、エコー用のEQやハイダンプなどフィードバックの高音域減衰用に追加されるブロックは簡易な1次IIRフィルタ(LPF)程度の処理が用いられエコーの高域減衰を制御できるようになっています。 ハイダンプの位置は、ディレイ出力に配置する方法とフィードバックに配置する方法の2種類が考えられます。 リバーブの初期反射音と残響音のように最初のディレイ音はハイダンプせずに後の繰り返し音のみをハイダンプしたような音にする場合には、フィードバックにハイダンプを配置します。
ハイダンプは、±の両極性にされていることも多く、極性を持つ場合には、プラス極性で高域が減衰し、マイナス極性では高域が残る特殊なエコー効果になるようになります。
ショートディレイは、音楽ではごく短いディレイ時間のエフェクトを指して用いられるものです。 シグナルブロックとしてはロングディレイと全く同じもので、ディレイ時間が短いだけです。 単にショートディレイと呼ぶ場合には、フィードバックを使わないで単独のディレイ音を使う用途を指していることが多いようです。
ダブ、ダブリングは、ショートディレイでコム(櫛)フィルターのようなエフェクト効果にするものです。
ショートディレイをごく短い時間で大きなレベルで使いコムフィルター効果を狙って利用することをダブリングと呼ばれています。
ダブは楽器に対するエフェクトというよりは、DJミックスのようなシーンでマスター化された音楽自体に用いられることが多い手法です。
リバーブのコムフィルタは、フィードバック付きのショートディレイを使ったものです。
次のページでは、ステレオ、クロスディレイ、変調系とマルチタップディレイについて記します。