防災無線放送の音響設計や調整の検討にコンピュータを利用した 音響シミュレーションの技術を組み合わせ、測定調査ではつかみきれない 広い市区域の音達状況の診断を行い、効率的、効果的な改善のお手伝いをいたします。
「聞こえない」「うるさい」を改善します。
防災は、「災を防ぐ」と書きますが、災害を根本的に防ぐことを指すものではなく、 災害時に被害が拡大することを防ぐのが目的であることは言うまでもありません。 防災無線放送は、災害発生時に注意喚起と情報を伝えることで被害を発生させない、 拡大させないことを目的としています。
「防災」、災害に備えた設備や仕組み、行政の取り組みは、 水害を防ぐための堤防や津波に備える防波堤、避難の場所の取り決めと確保、 災害用の食糧や水の備蓄、緊急車両の導線確保、火災延焼を防ぐための都市計画など多岐に渡ります。
未曾有の災害に対しても十分な備えを持ちたい、 災害被害低減のために万全な対策や計画を用意したいと誰もが考えますが、 必要となる莫大なコストや通常の災害時規模では過剰となる設備が適切だとは考えられないことは明白です。 そのため、防災、災害の備えは過去の甚大な災害の経験や各分野の科学的見地などと併せて リスク管理の観点によって必要十分な最適解が検討されます。
防災無線放送についても、コストを投入して過大な設備を有することは考えられず、 災害発生時には、できる限り多くの人の注意を喚起し、 情報を伝えたいという欲求と同時に必要十分な設備、最低コストによって実現したいと考えることはリスクマネージメントの必然です。
あらゆる場所にスピーカを設置してもれなく音声が聞こえるようにできれば、 最高レベルの放送となる可能性が濃厚ですが、 災害に対するリスクヘッジとして民間の建物や土地に防災放送設備を配することは、 経済的、コスト的にも、また、市民の理解を得ることも難しいことは自明です。
リスク管理の観点からすれば、このような過剰な備えは最適解であるとは限らず、 前提とする条件や目標設定に問題があるとされることでしょう。
防災放送の設備は、災害時にできる限り広く、多くの人に放送音声が伝えられるよう、 限られたスピーカ子局の設置数によって経済的で最大の効果を上げることが目標となります。
防災無線放送における最適化とは、適正なコストによって、「聞こえない」場所をなくし、 可能な限り地域全域に聞きやすく適した音量の放送を実現することが該当します。
放送設備や放送用のスピーカ子局は必要最低数にすることが求められ、 広い市区域をカバーするために大きな音量を少ないスピーカで出力するため、 全てのエリア全に最適な放送を実現することは難しくなります。
設置の制約やコスト性によって「聞こえない」場所や「うるさい」場所が発生し、 やむを得ないとは言え、その問題の解決は容易とは言い難いものとなっています。
その上、地域の防災放送の主体となる自治体の努力によって、 最適な状態を実現できたとしても、街区の建物の高層化などによって、 地域が継続的に変化し、聞こえない場所や音声が判りにくい場所が新たに発生します。
自治体は、設備の保守、メンテナンスにとどまらず、 地域の変化にも対応するために放送音声の音達 (音声が到達する)状況の改善についても地道に継続的に行われていますが、 適正コストを考慮した最低数とはいえ数百におよぶ大出力のスピーカを限られた設置条件の中、 防災無線放送の最適化を目指すことは非常に困難であることは想像に難くありません。 多数の子局の最適化は物理的にも難しい問題への挑戦とすらいえます。
「聞こえない」「うるさい」問題は、このように容認せざるを得ない事情も多々ありますが、 ARIは音響設計や調整にコンピュータによる音響シミュレーションを取り入れ、 防災行政無線放送の関係者の取り組みの軽減や改善を図ることができないかと考えました。
音響シミュレーションは、三次元の立体的な計算モデルを作り、 コンピュータ・ソフトウェアを使って音の伝わり方の計算を行う音響設計の技術です。 音響シミュレーションの基本的な技術は、音響設計の分野で古くから提案され、 音響ホールなどの音響サービスを目的とする建物や商用施設においては実用技術となっています。
商用施設では屋内に限らず、屋外の比較的、広い場所、テーマパークや競技場、 サーキットのような場所でも利用されているケースがありますが、 防災無線放送で必要とされる街の規模の音響設計では、まだ、あまり利用されていません。
このシミュレーション技術を防災無線放送の音響設計に利用するには、 地形と市街地を計算可能な3Dモデルとして作成し、その規模に応じた計算量が必要となります。 防災無線放送の分野において音響シミュレーションの技術があまり実用化されていないのは、 商用施設の建物内の計算に比較すると非常に規模が大きく、多大な計算量と立体モデルの作成方法が要因の一つとなっています。
現在は、地形図や建物の地図データもコンピュータで扱うことができるデータが整備され、 これらを用いて市街地の3Dモデルを作成することも可能となり、 コンピュータ性能の向上によって、計算モデルの近似や計算方法による計算量の工夫は必要なものの、 大規模な街の音響シミュレーション計算も可能となりました(それでも計算時間はかかりますが)。
商用設備の音響設計においては、高品位な音響空間を創出するために音響ホールの設計者がシミュレーションを利用します。 音響ホールでは、音が「聞こえない」ことを問題とすることは考えられませんが、 防災無線放送では「聞こえない」という問題が存在しています。
防災無線放送と商用施設では、スピーカ子局の設置場所の制約や適性コスト、 放送サービスの目的、規模が違い、音響設計において目指す放送の最適化も異なるものですが、 音響シミュレーションの基本的な技術は応用可能です。
多数の子局と多数の建物からなる複雑な放送エリアでの音場の状況を検討するには、 むしろコンピュータ・シミュレーションが道具として適しています。
モデルと計算量の問題以外にも、コンピュータ・シミュレーションや数値解析の技術には、 適切な計算条件を判断することと計算結果の分析が不可欠になることが実用上の障壁となります。
このような背景から、ARIは防災無線放送で利用できる音響シミュレーション・システムを開発し、 シミュレーション計算のみでなく、分析・診断も含めた音響技術のサービスとして取り組んでいます。
ARIのPAS.DO(パス・ドゥ:Public Address System Diagnostics & Optimization)は、 従来、防災無線放送で行われている音響設計、測定、調整の作業に音響シミュレーション技術を取り入れた 音達の診断・分析、測定と予想、スピーカの調整や改善の提案など、防災無線放送の音響設計をお手伝いするサービスです。
防災無線放送の問題は、音量に限らず、音質などの改善も存在しますが、 まず、最も基本的な「聞こえない」「うるさい」という問題の改善から取組んでいます。
防災無線放送の「聞こえない」「うるさい」問題の改善をサポートします。
音響シミュレーションを利用するには、計算ソフトウェアの実現のみでは不十分であり、 計算条件の設定や分析、音響測定による実測結果の分析や計算結果からの予測など、 専門技術者の技術が必要となることはご存じの通りです。 ARIは音響シミュレーションのソフトウェアパッケージの提供を目標とはせず、 計算から分析技術まで、音響技術のサービス業務としてご利用いただいています。
次ページ以降、音達試験の音響測定やシミュレーションの利点などについて、 もう少し詳細に述べます。