ここまでシグナルフローは単一チャンネルでしたが、通常のディレイは、ステレオ(LR)2チャンネル以上の信号ブロックになります。 最もシンプルなタイプは、左右に独立したディレイ2チャンネルのディレイを持つだけのものですが、入力や出力を交差させてステレオ効果をもたせるものもあります。
ステレオ用の場合には、ディレイタイムなどの操作が左右の設定が連動するように制御されていることが多いかもしれません。
サラウンドのためのディレイでは、フロントからリアにディレイをつけたり、ハース効果をもたせるためのディレイなどチャンネル間のディレイは応用範囲が広いため、ディレイ出力のシグナルフローには多様性があります。 サラウンドでディレイを利用する場合には、1つのチャンネルを複数に異なるディレイ時間で出力するため後述のマルチタップディレイの方が適しているかもしれません。
クロスディレイは、右のディレイ音が左に、左のディレイが右に交差した状態で出力されるようになっているものです。 交差する箇所は、入力、出力、フィードバックが考えられますが、一般には入力 ショートディレイにすると、ステレオに広がったような効果になり、リズムギターパートを片側にデットにミックスし、逆側にディレイで広げる手法としても用いられます。
交差させる場所によって、チャンネル間のディレイ音の関係が変化します。
クロスディレイの種類には、出力(入力)のみクロスする場合とフィードバックをクロスするものなどバリエーションがあります(入力と出力の交差はシグナルフローの見かけは異なりますが、どちらも効果は同じです)。
左右交互にディレイ音が飛ぶような効果の場合には、入力または出力とフィードバックが交差された接続方法になります。 ディレイ音が左右に交互に反射している状態が、丁度ピンポン球が左右にはねて動いている様子に似ているためピンポンディレイと呼ばれています。
ディレイの遅延時間をモジュレーション(LFO)で動的に変化させるエフェクターに、コーラスとフランジャーがあります。
LFOのレベル(depth)を時間に、周波数は変調速度(rate)としてディレイ音を周波数変調します。
信号データの周波数変調を行うために、単なるディレイとは異なりフィルタリング補間処理が必要です。
コーラスは、原音がコーラス(合唱)のように複数の音源で鳴っているかのように変化させるエフェクターです。 名前の割には音声に用いられることは少なく、楽器音に利用される方が一般的です。
コーラスの場合には、複数のディレイ時間、異なるLFOの位相を用いてミックスされた音にしたものがポピュラーなものです。
フランジャーは、ショートディレイの時間を周期変化させて原音にミックスし、コムフィルターの作用する周波数が周期的に変化し、うねりを持った特有の音になるものです。 ジェット音効果などとも呼ばれるます。
アナログのオープンリールテープレコーダーを使っていた時に、リールの端(フランジ)を触りながらテープ音声の速度変化させた音をミックスした時に同様の効果になるためフランジャーという名前が付けられています。
コーラスもフランジャーも、ディレイタイムをLFO(Low Frequency Oscillator : 低周波数発信器)で周期的に変化させることでディレイ音に変調を掛けた効果です。 コーラスは複数の変調したディレイ音を利用し(3相コーラス)になっておりフィードバックを使わないことが一般的です(フィードバックコーラスというフィードバックを使うものもあります)。
マルチタップディレイは、複数の遅延時間の音にそれぞれのゲインを掛けてミックスするものです。
1つのディレイの出力をタップと呼び、それぞれ独立のディレイタイムとレベルが任意に制御されます。
マルチタップディレイにフィードバックをつけると経路によってはかなり複雑なリピート音になりますが、 利用面からフィードバックをつける場合には、リピート時間(トータルタイムなど)を別に設けたシンプルなフィードバック経路にするのが一般的でしょう。
リバーブの初期反射のように反射音のシミュレーション的な用途にも用いられますが、 多数のタップを密集した状態にしたアーリーリフレクション( Eary Refrection )という呼称のエフェクターとして用いられている場合もあります。
個々のディレイ時間を同じにするとエコーのようになりますが、エコーのように反復せず、一定回数繰り返すとエコー音が途絶えます。 ディレイにフィードバックを掛けたものとは異なり、原音と同レベルを繰り返すなど特殊な効果を狙ったディレイとして利用される方が多いタイプです。
操作設定の方法には各種の方法が考えられますが、N段分のディレイ時間、レベルと、全体のリピート時間、フィードバックで設定する方法がオーソドックスではないでしょうか。 ステレオ化は、意図色な組合せが考えられますが、煩雑になるため、あまり複雑なシグナルフローにはしません。
サラウンドタイプのディレイは、リアスピーカーへの出力をフロントからディレイをつけるなど、マルチタップディレイが適した信号処理です。
次のページでは、ディレイを信号処理で実現する方法について記します。