このコラムは無料メールマガジン「アメニティ&サウンド音と快適の空間へ」 vol.36〜vol.64(2003年8/21〜2004年11/18)に音響と開発の関連コラムとして連載していたものを編集掲載したものです。
CNET Japanの森祐治さんの先月(2004年2月掲載時)のブログに「統計ソフトよりも基礎分析力を習得しておこう」という題のコラムが掲載されていました。
▼「統計ソフトよりも基礎分析力を習得しておこう」
CNET Japan Blog 森祐治・情報経済ブログ 2004年01月29日
http://blog.japan.cnet.com/mori/archives/000973.html
このコラムでは統計の分析と統計ソフトの利用についてが主旨になっていますが、このような問題は技術的な側面を持つドメインでの共通の状況といえるような気がします。
コラムで述べられている問題は、統計分析を課題としている人(学生)が、分析内容を置き去りにして統計ソフトを利用して高度な手法による分析結果を得ていることが挙げられていますが、これは、例えば、ソフトウェアのライブラリの動作やアルゴリズムを正しく理解せずに、利用して高度な処理を実現しているプログラマというのも類似したことといえるかもしれません。
アルゴリズムの理解やコンピュータの動作原理などを深く理解せずに利用して結果のみを得るという実装の設計に問題があるという意見は古くから存在するものですが、現在のソフトウェアに求められる処理内容が高度で規模が大きくなってきているため、その傾向はより強くなっているといえます。
コラムでの主旨とは異なりますが、考え方を拡大すると「原理を理解して」設計することを求めるとすると、コンピュータのような高度で複合的な機器で動作するソフトウェアを設計する場合、いったいどこまで理解している必要があるのかという問題に直面します。
もちろん、専門に関わる全てを理解していれば、それに越したことはありませんが、ソフトウェアの場合には、専門のドメインとは果たしてアプリケーションの分野を指すのか、実装コーディング技術を指すのか、もしくは、ソフトウェア工学的技術を指すのかと考えると、その全てということになり、大変広範囲な専門知識と総合技術を求められることになります。
一例を挙げるならば、映像に関わるソフトウェアであれば、PCやOS、コーディングの知識は言うに及ばす、映像、音響、AV機器やメディア、サラウンド(ドルビー、DTS)やコーデックなどの規格やDRM、著作権問題とそれに伴う暗号化技術や法律問題などなど……将来性や一般教養的には、mpeg4(mpeg7も必要かも)や放送メディアなどについても技術的、社会的な面について押さえているのが専門家ということになりますが……(際限がないかもしれません)。
▼IT用語辞典 e-Words : DRM【デジタル著作権管理】
http://e-words.jp/?w=DRM
▼MPEG-7 Japan Domestic Home Page
http://www.itscj.ipsj.or.jp/mpeg7/
やはり、分業化によって専門領域を分ける必要があることは明白です。
先のコラムでは分析を問題にしなければいけない所、手段が目的と化して統計ソフトを利用することに振り回されているいう内容でしたが、ソフトウェアの領域で同様の問題を考えた場合には、さらに多少複雑な問題を含んでいるかもしれません……
専門性、あるいは専門領域というものは、専門の技術分野とそれが利用される分野の2つの領域についての専門性というものがなければ、おおよそ、学術的な目的や特殊な問題でなければ成立しないことが多いかと思います。
ソフトウェアの場合には、OSやコンパイラ、開発ツールなどであれば、ソフトウェアを目的としているためソフトウェアに精通していることが、ほぼ全てとなりますが、それは特殊なケースといえ、一般的には、ソフトウェアの応用を目的とする何かが専門分野となるかと思います。
そのため、ソフトウェアが応用される分野自身についての専門家であることが同時に求められます。
他の職業でも、弁護士であれば、民事なのか刑事なのか、どのような方面に強いのかというのが専門分野となり、法律や裁判以外の専門分野の知識にも精通している必要があるでしょう。
営業職であれば扱う商品や業種に関連する知識や理解が必要です。
経済産業省のITスキル・スタンダード(ITSS)の分類は、ソフトウェアの職種と専門の分類をしますが、11種類の職種と定義されている38の「専門分野」、そのスキルレベルを定義して評価やIT系の人材育成の尺度に利用できるようにするもので、ここで述べている専門領域の問題とは異なります。
ITSSでは、スキルの尺度として、また、スキルパスなどを考える上での尺度として、専門分野でのレベルや必要な知識を一般化して定義されていますから、総合力やマネージメント能力などが主な指標としてレベルに採られているといえるかと思います。
▼ITスキルスタンダード
e-Woirds IT用語辞典
(総務省の適したポインティングができると良いのですが、
全てPDFなので、簡単な説明としてe-Wordsをリンクします)
http://e-words.jp/w/
ITE382B9E382ADE383ABE382B9E382BFE383B3E38380E383BCE38389.html
知識などの項目は、総合的評価尺度として妥当であると納得できるものですが、この指標では、特定技術に特化して長けた技術者のスキル評価はレベルが高くならないかもしれません。
当然ではありますが、スケールをレベル熟成度の基準に取っているため、スケールの小さいシステムを扱う技術者はレベルは低くなると思います(理解が間違っているかもしれません)。
扇風機の制御ソフトの分野で世界的な第一人者がいたとしても、この尺度においては情報機器などスケールが大きい製品の凡庸な技術者よりスキルレベルは低くなるように思います。
また、以前良く言われた少人数精鋭グループでの効率的な開発なども、スケールという点においてレベルが低くなるかもしれません。
10年ほど前には、ソフトウェアは成熟するに従って、OSやライブラリ、アプリケーションなどの専門分野に特化した技術者に細分化され、アセンブラのような機械に近いレベルからGUIまで全てをカバーするというような技術者、メーカーは少なくなってゆくだろうといわれていたように思います。
当時の論調は、ハードウェアの部品、アセンブリ、メーカーなどのような水平分業的な構造で語られていることが多かったように記憶していますが、ソフトウェアの専門分業化は少し異なる要因での分業化の方が大きなファクターとなっているように見えます。
ソフトウェアの水平分業化は、中間のライブラリやアセンブリのような業種や、パッケージングのみのメーカーという構造はうまれにくい傾向にあり、LSIの高度化とアプリケーションの高機能統合化傾向の影響もあって部品からライブラリまでとユーザー向けアプリケーションやプレゼンテーションの両極に分離しやすい傾向がるかと思います。
▼ライブラリ 【library】
e-Words IT用語辞典
http://e-words.jp/w/E383A9E382A4E38396E383A9E383AA.html
1つにハードウェアのように中間点でのアセンブリ・パーツのような中間製品の市場を形成しにくい性質があるかもしれません。
これは、さらに高度に成熟すると成立するのかもしれませんが、今までの所、この部分は、下位パーツの高度化したものというような位置付けがなされ、高機能、高論理レベルでのドライバのような形として実現されて中間レベルを包含するか、アプリケーションのレベルで比較的、低レベルな論理までを包含するという形がとられることによるものだと思います。
▼デバイスドライバ 【device driver】
e-Words IT用語辞典
http://e-words.jp/w/E38387E38390E382A4E382B9E38389E383A9E382A4E38390.html
もう1つの要因として、水平構造のみを語っていても、あらゆる産業分野でのソフトウェアを一律にみなすことはできず、応用分野も拡大してきているため、分野によって垂直方向に分離したり、接近したりという垂直構造の大きな変化という点があります。
視点を変えると、垂直、水平に細分化されている専門特化性が見られるものの、ITやPCアプリケーション、情報家電などのように機能の統合化によって構造的な境界線が変化していることによる影響が大きいために固定的な構造による分業化に至っていないということが違って見える要因かもしれません。
数年前にはWEBによるネットワークWANを利用したIT化によって、データベースやネットワーク、業務アプリケーションなどの構造が大きく変化しましたが(これはSOAなどでさらに論理レベルでは変化する可能性もあるかもしれません)、情報家電とPCのネットワークと家電の融合による境界線は、現在、線を引いたり消したりのピークです。
▼WAN 【広域通信網】
e-Words IT用語辞典
http://e-words.jp/w/WAN.html
情報化家電には、半導体メーカを筆頭のデバイスメーカーの境界線引きも加わっているためハードウェアもソフトも分業境界線が見えないような状況となっているかもしれません。
ARIはハードウェア設計、製造、ファームウェア開発、 Windowsアプリケーションの開発をしています。 実績等に興味をお持ちいただけましたら、会社情報に主な開発実績を 「音響と開発」のコーナーには事例など関連情報を掲載していますのでご覧ください。
ソフト、ハードウェア 技術関連の雑記
このコラムは無料メールマガジン「アメニティ&サウンド 音と快適の空間へ」 vol.36〜vol.64(2003年8/21〜2004年11/18)に 音響と開発の関連コラムとして連載していたものを編集掲載したものです。
ソフトウェア開発と開発ツール関連の雑記
機器組込みのエンベデット・ソフトウェア(ファームウェア)の開発に関連したコラムです。 メールマガジン「アメニティ&サウンド 音と快適の空間へ」に連載していた技術・開発コラムを編集掲載しています。
技術・開発の閑話 : ソフト開発コラムファームウェア開発(組込み)の技術 / |
開発ツールの話 : ソフト開発コラムソフトウェアの分類 / |
プロジェクト初期 ツール評価 : ソフト開発ツールの話プロジェクト初期のツール評価 / プログラムの動作・ソースの作成 / コード生成 アセンブラ、コンパイラ / 型変換を伴う式評価(コード生成) / 暗黙のライブラリ(コンパイラ生成コード) / 組込みCPUのメモリアクセス / コード生成〜デバッガ |
デバッガとICE ツール評価2 : ソフト開発ツールの話CPU,DSPの内部の状態モニター / プロセッサ周辺のモニター(メモリ、I/O) / 実行の停止(ブレーク) / シングルステップ実行 / 任意部分の実行 / ヒストリー - 実行トレースとコマンド / 各種ファイルのロード、セーブ / シンボル化 |